本番で指揮者がいなくなったアクシデント [オーケストラ]
先日、小林研一郎さんの本番でのアクシデントを紹介しましたが、今日は自分が経験したことを書きたいと思います。
1983年から1990年まで、武蔵野市民交響楽団に所属していましたが、1984年の演奏会のことです。指揮者の小池利宏先生は、威勢がよく厳しい先生で、酒豪で病気ひとつしたことのない先生でしたが、この年ある演奏会会場で倒れ救急車で運ばれました。それからしばらく体調が優れず、5月13日の第18回定期演奏会となりました。
1曲目、モーツアルト「魔笛」序曲。僕がトップでした。無事に終了。2曲目モーツアルト交響曲第39番で、オーボエのない曲なので、舞台袖でみていました。小池先生の様子が明らかにおかしいのです。左手が全く動かないのです。第3楽章メヌエットのトリオのクラリネットソロですが、先生は左手で2と示します。これはよく先生が練習でやる合図で、2番括弧に飛べという合図です。要するに一刻も早く終わりたかったのでしょう。ほとんどの人がこれに気づいて2番括弧に飛びましたが、クラリネットソロ奏者だけは繰り返しを少し吹いてしまいました。4楽章、異変に気づいた降り番の団員は、舞台下に待機して、先生が倒れてきたら支えようと身構えるような状況になりました。しかし何とか演奏を終えて前半終了。
後半の曲はベートーヴェンの交響曲第8番ですが、僕はセカンド吹きとして乗っていました。いよいよ本番、指揮者として登場したのは小池先生ではなく、団員のKさんでした。つまり小池先生は指揮をすることができず、たまたま降り番だったクラリネットのKさんがピンチヒッターで降ることになったのです。アンコールのピチカートポルカもKさんの指揮で無事終了。今思えば、練習でも降ったことのないのに、Kさんはさすがだと思います。
その1ヶ月後、今度は室内楽の演奏会がありました。小池先生が指揮をします。Rシュトラウスの13管楽器のためのセレナーデは僕はトップ、続くグノーの小交響曲は降り番でした。後半はドヴォルザークの管楽セレナーデ、オーボエ2、クラリネット2、ホルン3、ファゴット2、それにチェロとコントラバス各1の4楽章からなる大曲です。僕はセカンドで乗っていました。
この時もだんだん小池先生は調子が悪くなり、3楽章が終わった時点で、我々に向かって小声で「棒なし」と言いました。そして客席に向かって「ここからは指揮なしでやります。今日はうまくいったら指揮なしでやるつもりでしたので」といって去って言ってしまいました。テンポの変化する終楽章をあわせるのは大変でしたが、何とか止まらずに演奏することができました。
指揮者が途中でいなくなったという経験は、後にも先にもこの1回だけです。
小池先生はその後体調もよくなり、長く武蔵野市民交響楽団で指導されていましたが、2002年11月に突然倒れ、そのまま帰らぬ人となりました。63歳の若さでした。
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大変だったのですね。でもめずらしい経験のようですね。演奏を作りあげる段階では指揮者は必要なのでしょうが、演奏会では、実質的にどの程度必要かちょっと垣間見える気がしました。訓練すれば、指揮者なしでなんとかなるのでしょうか。
by yablinsky (2010-03-20 09:13)
経験のない「指揮」を突然しなければならないというのは大変な事です。プロの世界では副指揮者などが急遽代役を務めて名声を得るというケースがありますが、訓練されていない人が務めるというのは大変な事です。
指揮なしでもできるオーケストラであればこそかも知れませんね。
左手が動かないというのはやはり脳の方だったのでしょうか。
by センニン (2010-03-20 17:44)
yablinskyさん、コメントありがとうございます。
指揮なしでやった本番のほうは、木管アンサンブルで、比較的少人数ですから、もともと指揮なしでやることも多い曲でした。なので、出来たのだと思いますが、さすがにフル編成のオーケストラでは、指揮なしだと、縦の線が揃わないのではないかと思います。
それでもモーツァルトぐらいまでだったら何とかなるでしょうが、チャイコフスキーやマーラー! は棒なしでは、絶対無理ですね。
by ながぐつ (2010-03-20 21:40)
センニンさん、コメントありがとうございます。
ほんと、今考えても、突然指揮をしたKさんは超人的です。下振りもしていないわけですからね。曲は知っていたと思いますが。
どうも最初に倒れた原因は脳梗塞らしいようなことは言ってたように記憶していますが。でも1年ぐらい経ったら、完全に元に戻って元気に指揮をされていました。そしたら今度は突如心臓発作らしくて、あっという間にお亡くなりになってしまいました。
by ながぐつ (2010-03-20 21:44)
本番では何が起きるかわかりませんが、
指揮者が・・・想定したことありませんでした。
コンマスがタイミングを計り指揮者との潤滑油的な
存在になる事は聞いた事がありますが・・・。
やはりナマは色々な事を想定しておくは大事ですね!
by ユーフォ (2010-03-21 01:05)
ユーフォさん、コメントありがとうございます。
ちょっと話は違いますが、カラヤンが目をつぶって演奏して、ときにわからなくなってコンマスを見る、といったことを聞いたことがあります。
しかし、指揮者がいなくなるということを想定して練習するわけにもいかず、いざそうなってみたら、どうしようもないですね。
プロの場合、どうするんだろうか。公演中止かな?
by ながぐつ (2010-03-21 08:36)
指揮者目当てのお客さまもいますしね~
by ユーフォ (2010-03-22 00:06)
ユーフォさん、再コメントありがとうございます。
「金返せ~」ってなりますよね~。
by ながぐつ (2010-03-22 06:56)
第9かなにかでソリストが歌えなくなって客席にいた声楽家が代わりに歌ったことがあるそうです。
指揮者やソリストは責任重大ですね。
オケの一員でも人数が少ないパートの人は大変だと思います。
by Cecilia (2010-03-22 10:07)
Cecillaさん、コメントありがとうございます。
そうですか、それは大変。やはりあるのですね。
そういえば、前に第9を聴きに行ったとき、合唱団の中の一人が倒れて運ばれていったのを目撃しました。何百という演奏会が開かれているのですから、どんなに体調管理を万全にしていても、こうしたアクシデントが起こる確率はゼロではないですね。
by ながぐつ (2010-03-22 21:27)